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けれどそれからも早坂は現れる気配を一向に見せなかった。
「――な、なら、私が開けてみるしかないべ」
どれくらい経っただろうか、一念発起した三佳は、抜けた腰でどうにかフローリングの床に這って上がると、懐中電灯の明かりを頼りにクローゼットへ向かうことにした。
恐怖といえども、晒され続ければ次第に麻痺してくる。
さらに、まだ早坂が来るタイミングではない=自分が何かしらの行動を起こして霊をおびき出さなければ来てもらえないことにも気づいた三佳は、オオカミのくせに鬼だ!、私、女の子だよ!? という怒れる感情を原動力にして、腕の力を使いズリズリとフローリングの床を這っていく。
「うう……。この腰さえ元に戻ればすぐなのに……」
とはいえ、思うように縮まらないクローゼットまでの数メートルがひどくもどかしかった。これではどちらがより幽霊らしいか、わかりゃしないとも思う。
でも、こればっかりは仕方がないのだ。だって三佳の腰はまだ抜けたまま。完全にジレンマである。
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