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ただ、クローゼットに着いても、何をしてもいいわけではないだろう。床や備え付けの家具に傷を付けては、解決後に入居者を募集する際に修理が必要になるし、その費用を早坂ハウスクリーニングに――三佳に請求されても、金額にもよるが払える気がしない。
なにせ初めての給料日もまだなのだ。
それで買うものも、もうずいぶん前から決めてある。
――実家のある宮城の家族に花キューピット。
大した金額は出せないが、それでも見て可愛く世話も楽しい花を贈ろうと採用直後から決めているのだ。それまでは絶対に死ねないし、なんなら明日のご飯にも夢を見たい。
それに、三佳がクローゼットを開けると決めた直後から、禍々しさがいっそう薄らいでいるのをひしひしと感じる。
代わりにどこまでも落ちていきそうな悲しみの空気が広がっていくけれど。でも、怖いよりは幾分マシだ。
花を贈るんだ、明日のご飯は何にしようと休みなく未来に楽しい想像を膨らませていれば、なんとか相殺できそうである。
……というか、人間の順応力とはなんと逞しいのだろうか。
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