80人が本棚に入れています
本棚に追加
「――わ、わかりました! 私が探します、私に探させてください!」
とうとうシクシクと泣き出してしまった霊に、三佳はドンと胸元の刺繍を叩く。
さっきは、人間に恐怖を与えるのは負の感情に起因するところがあると思った。けれど、余計なものまで集まってきていることを自覚しているなら、部屋に近づいていくにつれて空気が変わっていったことも、ドアを開けた瞬間の圧倒されるような禍々しさも、この霊とは無関係なんじゃないだろうかと思う。
それに霊は、何も恨んでなんかいないと思う。
彼女はきっと、生前の〝未練〟に縛られているだけなのだろう。それがおそらく〝余計なもの〟が引き起こす負の空気の中に違和感として覚えた大きな悲しみの感情だ。
――だったら、私が未練から解放してあげなきゃ。
三佳はそう思った。だいたいの事情は掴めた。ぜひ手助けさせてほしい。
『ほ、本当に!?』
「はい。写真なら、きっと私でも探し出せると思うんです。どこにあるかもわかっているんですから、話は早いですよ。それに、故人の思い出のものを、残されたご家族や大切な人、あなたのように亡くなってからも探し求めている人にお返しするのも、ハウスクリーニングの仕事の一つだと思うんです。……もちろん、悲しみはけして消えません。けど、そうしてお返しすることで、少しだけでも心が安らかになって頂けたり、浮かばれた気持ちになって頂けるかもしれません。私の仕事は、そういう仕事でもあると思うから――って言っても、今年入社したばかりのぺーぺーなんですけどね。でも、頑張ります!」
最初のコメントを投稿しよう!