■0.これが事のはじまりなわけで

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 そうして手探りで探すこと数十秒。これまで木や溜まった埃でザラザラしていた軍手越しの感覚に違った感触があった三佳は、それを慎重に取り出すとユウリに見せた。  だいぶ埃を被っているが、ずっと暗い場所に置いてあったおかげか、写真はしっかりしていた。明るいところでよく見ないと、という話になってくるとは思うものの、ヘッドライトで照らす限りは日に焼けて色が褪せてしまっているような部分も見受けられない。  ……ただ、ネズミでもいるのだろう、四隅が控えめに食いちぎられているけれど。  まあ、食べたところで美味しいわけでもないので気持ちはわかる。置いてあった場所や経年を考えれば、写真の中の人物が無事なら、それだけで十分ありがたい。 『……そうよ。これよ、これ。これを見つけてほしかったのよ』  無事に探し出せたことにほっと胸を撫で下ろす三佳の肩口で、ユウリが写真をじっと見つめながら囁くように感嘆の声をもらす。涙こそ流れないけれど、声の調子や頭部の揺れ方でわかる。三年ぶりに実際の写真を見ることができて感無量といった様子だ。
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