■0.これが事のはじまりなわけで

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 ユウリに渡すことはできないし、三佳が持っておくわけにもいかない。かといって彼女が生前慕っていた彼に託すにしても、今さらどうなんだろうという感じだ。  何より彼には守らなければいけない家族と会社、その会社に勤める社員の家族まで守る義務がある。何かの拍子に明るみに出れば、それこそユウリが一番望まないことになってしまう。  ただ、処分――という言葉はできるだけ避けたいけれど、こうして故人の私物が見つかった以上、どうにかしなければならないことは確かだ。ユウリのご家族に連絡を取って引き取ってもらうか、もしくは寺できちんと供養してもらったほうがいいかもしれない。 『んー。じゃあ、三佳が持っててよ。焼かれるのも、もったいないし』  けれどユウリは、事もなげにそう言う。 「ええっ!?」と驚愕に目を見開けば、 『実は私、親に勘当されたのよね。お葬式は出してもらったけど、特に父親は葬儀場でもお通夜でも終始ぶすっとした顔をしていてね。……まあ、骨になったときはさすがに目頭を押さえてはいたけど、そういう父親だから写真は引き取ってもらえないと思うの。母親も母親で、今も複雑だと思うわ。それに私の私物は、四十九日を過ぎてからきちんと処分された。三佳は親なのにどうしてって思うでしょうけど、そういう家もあるのよ』
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