■0.これが事のはじまりなわけで

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『丸二年。最後の住人が出ていってからも、ちょこちょこ入居者はいたって言ったでしょう。その頃にはもう、私はここに閉じ込められちゃってたわ。ちなみについでに言うと、玄関で尻込みしていた三佳を中に入れたのは、この二年の間に溜めた力なの。時間はかかるけど、チャージってできるのねぇ。幽霊にならなきゃ知り得ないことだったわ』 「そんなにかかったら死んじゃうよ!!」 『三佳はね。私はもう死んじゃってるし』 「それを言ったら身も蓋もないじゃないですか……」  ていうか、意外と便利である。  まあ、チャージしたその力でクローゼットから出られたんじゃないかと思わなくもないけれど。でも、それは野暮ってものだろう。ユウリは自分が外に出ることより、誰かがここにやって来てくれる可能性に賭けていたのだ。  全ては、彼と写った生前最後の写真をもう一度見るために――。  なんて泣かせる幽霊だろうか。こういうのを、きっと純愛と呼ぶのだろう。  願わくば、三佳もそんなふうに愛し、愛されたい。幽霊になってでも、というのは考えものだけれど。でも、そこまで想える相手に出会うなんて、きっと奇跡だ。幸せだとも思う。勘当された身のユウリにとって、彼や彼への想いは拠りどころだったに違いない。
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