■0.これが事のはじまりなわけで

45/59
前へ
/277ページ
次へ
「悪霊化に決まっているじゃないですか。そうなってしまっては、先ほどのように跡形もなく滅するしかありません。……そうですね、顔面の崩壊具合からいって、もう数日遅ければ、といったところでしょうか。もしくは取り込まれていたかもしれませんね。それでは未練を解消するどころか、成仏だってできやしないんです。胸に抱くほど仲良くなったあとに聞くのも、なかなか意地悪な質問ですが――野々原さん。限界が近いながらも理性を保っている霊と、闇に飲み込まれ、ただただ周りに危害を及ぼすだけが目的となってしまった悪霊と。野々原さんなら、どちらが憑く物件に送り込まれたいですか?」 「ユウリさんがユウリさんのままでいるうちがいい決まってるじゃないですかっ!」  聞かれて三佳は、間髪入れずにそう答えた。  なぜか早坂はユウリとすっかり打ち解けたことを根に持っているようで、対抗意識を燃やしたり、チクチク小言を言ってきたりはするが、選択を迫られるまでもなく、三佳だって断然、前者を選ぶ。  話ができなければ、未練が何かもわからない。わからなかったら、今、三佳の胸元のポケットに入っている写真だって、絶対に見つけることはできなかった。そうなれば、写真はずっと、あのままだっただろう。  誰にも見つけられることなく、真っ暗な中でこれから何十年もあの場所で埃を被り続けることになってしまう――。
/277ページ

最初のコメントを投稿しよう!

80人が本棚に入れています
本棚に追加