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そうして三佳たちは、すっかり空気が入れ替わったアパートをあとにした。
行きは三佳が運転したが、帰りは早坂がハンドルを握ってくれた。「送りますよ」ということで、お言葉に甘えて三佳は自分の住む部屋まで送ってもらうことにしたのだ。
部屋に帰ると、三佳は薄ネズミ色の作業着のまま、ベッドへ寝転んだ。気を張っていたので疲れは感じていなかったけれど、やはり部屋に帰ってくると気も抜ける。
すごい一日だったな、なんて今日の出来事を振り返る余裕もないままに、そのままウトウトと心地よい睡魔に身を委ねていれば、目が覚めたときには昼過ぎだった。
カーテンと窓を開け、三佳は日の光や風を体に浴びる。耳を澄まして通りを歩く人の話し声や遠くクラクションの音といった日常音を聞けば、やっと生きた心地がしてくるようだった。
「……でも、夢でも幻でもなかったんだよね」
確認するように作業着の胸元に手を当てると、自分だから持っていてほしいと頼まれた写真の感覚があり、三佳は両手でそっと包み込むようにしながら取り出す。
「ユウリさん……目は怖かったけど、いい幽霊だったな」
そして写真のユウリは、見れば見るほど綺麗だった。
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