■0.これが事のはじまりなわけで

51/59
前へ
/277ページ
次へ
 そして、続けてこうも問う。 「あ、そうそう。もしかしたら、彼は写真を焼いて供養することにすごく抵抗を示していたんじゃないですか? もしそうなら、ご実家にあるのは彼の〝男性〟としての写真ばかりかもしれませんね。これはあくまで仮説でしかありませんが、そう推察すると、だから彼はその写真をどうしても残しておきたかったと結論付けることができると思うんです。それから、なぜ写真があんなところから出てきたのかも――」 「……もしかして、自分に万が一のことがあった場合を考えて、誰にも見つからないだろうところに隠しておくため……? ご両親に捨てられちゃうから……?」 「そうですね。たぶん、そんなところでしょう。いつからかはわかりませんが、彼は自分の性にずっと違和感を覚えていたんでしょう。勘当されたくらいですから、ご両親はそのことをご存じのはずです。でも、お二人にとってはどうしても受け入れ難いことだったんでしょうね。まあ、隣に写る男性に思いを寄せていたことも事実でしょうけど、だったらわざわざ点検口なんかに隠さず、堂々と写真立てに入れて飾っておけばよかったんです。でも、それをしなかった――いえ、できない事情が彼にはあったんでしょう」
/277ページ

最初のコメントを投稿しよう!

80人が本棚に入れています
本棚に追加