■プロローグ

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 だって三佳は、大学卒業間近となった三月でも、くたびれたリクルートスーツと底が擦り減った黒のパンプスを履いているほどの、就職難民だった。  軽く百社は受けた就職面接は、気持ちいいくらいに全滅。それどころか、生活費の足しにとはじめたバイト先にはことごとくブラックリスト行きの迷惑な客や強盗が入り、即クビとなること二十数回。そして店長の誰もが口を揃えたように言うのだ。  ――野々原さんが来る前は、一度もこんなことはなかったのにねぇ……。  それは私が疫病神だと言いたいんですか。私だって毎度毎度、お店に迷惑をかけたいわけじゃないんです。でも、しょうがないじゃないですか。来ちゃうんですから!  二十数回、同じようなことを言われるたび、三佳は喉元まで出かかるその台詞をなんとか飲み下し、失意の中、短い間でしたがお世話になりました、を繰り返した。  そうして今に至る。  どうして自分ばかりが不幸な目に遭うのかはわからない。けれど人並みには幸せになりたい。  思えば昔から三佳の周りでは災難や不運が絶えなかったが、そのおかげで何度踏まれてもしぶとくへこたれない精神力だけは人並み以上に鍛えられた。人並み〝以上〟ではなく〝人並み〟が三佳の目指すところではあるが、ちょっとやそっとのことではビクともしない根性だけは、自分の最大かつ唯一のアピールポイントである。
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