■プロローグ

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 しかしこれは、ちょっとやそっとのことだ。だって、百社受けて落ちまくり、バイトもろくに続かなかったのに、なぜ即採用となったのだろうか。 「あ、あのぅ、本当に私を雇って頂けるのでしょうか……?」  だから逆に三佳は疑い深くなってしまうのだ。  不幸は根性では相殺されない。涙ぐましい執念の結果、念願叶って新社会人として初出勤の日を迎えられたはいいものの、いざ会社に行ってみれば会社もろとも忽然と消えていた――なんてことがあれば、さすがの三佳も軽く首吊りくらい考える。 「野々原三佳さん」  と、澄んだ泉の声が三佳の名前を呼んだ。 「は、はいっ」  おそらく手元に三佳の履歴書があるのだろう。初めて名前を呼ばれて胸の中がドクドクと脈打っているが、反射的にピシッと姿勢を正して前を見る。  こんなにも見目麗しい男性に名前を呼ばれれば、誰だってドキドキのひとつやふたつ、するに決まっている。まして相手は三佳の姿を見て即採用を決めた太っ腹すぎる人だ。疑わしい気持ちはまだ捨てきれていないが、その恩に報いたい思いも確かにある。
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