3 サルデア窟

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1  カイは日の出る前に目を覚ました。 ぐっすり眠ったおかげで気分は悪くない。おそらく今日中には何らかの沙汰があるだろう。覚悟を決め、しっかりと休息をとったことで、自分のなすべきことに立ち向かう心構えができたような気がした。なるほど、父の言う通りだとカイは思う。  階下に降りると、すでにイサリオンはいつものように机に向かっていた。 「おはよう、父さん」 「ああ、おはよう」  いつも通りの朝だ。カイは厨房に向かうと二人分の朝食を用意した。  質素な食事を終え、一息ついていると玄関のドアがノックされる音が響いた。腹を決めたつもりでいたものの、激しい動悸を抑えることができない。玄関に向かうと一度深呼吸をして扉を開けた。 「カイ・レグルス、屋形への出頭を命じる」  屋形の警護に当たるスメクランが言った。ガラを訪ねて屋形へ行ったときに何度も顔を合わせ、会えば挨拶をするくらいには親しかった男だが、今は事務的な態度に徹していた。 「しばし時間を与える。戦闘可能な装備を整えた上で、私の後に続け」  その言葉にカイは一瞬戸惑う。戦闘可能な装備、いったい自分はこの後どんな沙汰を受けることになるのだろう。しかし、躊躇している場合ではない。男は里の長の命を受けて正式な使者としてきているのだ。いつまでも待たせるわけにはいかない。慌てて身支度をしていると、イサリオンが傍らに立った。 「お前が起きる前に、ハイカルの店の者がこれを届けに来た」  イサリオンの手には飛龍の胸当てがあった。確かに店の主人は、明後日にはできると言っていたが、こんなに早く届けてくれるとは。  カイは飛龍の胸当てを受け取ると手早く装備した。そして扉脇の棚から自分の短刀を取ってベルトに挟む。 「ちょっと待て」
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