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「本来はまだ少し早いんだが、ミュートについて知っておくのもいいだろう。これから戦闘偵察隊の駐屯地に行ってみよう」
アーライルが言った。ほかにもミュートがいるのだろうか、それはどんな姿をしているのか、カイの心は得体の知れない不安に揺れた。
「うーん……」
ガラも目覚めつつあるようだ。カイは苦しそうに顔をゆがませたガラを見詰めた。頬が赤く腫れ、目の下に黒々とした内出血の痕がある。
「アーライル様……俺、あのとき何もできませんでした。ガラを危険な目に遭わせてしまって……申し訳ありません」
カイは、まったく背後の気配に気づかなかったこと、手も足も出ずに捕まったことを思い返して唇をかんだ。
ガラはそれでも脱出を試みようとした。それに比べて自分は……。
「逃げて行った男だがな、ドルグの里のログマールってヤツだ。かなりの手練れで、俺でも一対一ではやり合いたくない。手下も相当の腕だった、気にするな」
アーライルがカイの肩に優しく手を置いた。
「でも、でも……俺、強くなりたいです」
カイは唇を震わせながら吐き出すようにして言った。
『騙されたくないのなら、騙されずに済むように知恵をつけろ。誰かを犠牲にしたくないのなら、犠牲にせずに済むように強くなれ』
イサリオンの言葉がカイの頭に蘇った。しかし、今だけは……。カイは肩に置かれた手を握りしめて泣いた。
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