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「安心しろ坊主、普段は大人しいもんだ」
ミュートの鎖を持ったラドルが言った。
「今ならあの腿から生えた余分な足を刈っても大人しくしてるさ。やって見せようか」
ラドルがまた少し早口になった。どうやらミュートの特性を説明するときは早口になるらしい。
「い、いえ結構です」
カイは慌てて言った。すでに血腥いものは十分過ぎるほどに目にしている。
バグレストの森を歩いていると、何度か見張りの気配を感じた。普段より警戒が厳重になっているようだ。屋形からの指示で監視が強化されたのだろう。しかし、一行に話しかけようとする者は誰ひとりいなかった。
鉄仮面の縁と鉄の前掛けが触れ合って、ときどきガンガンと無様な音がする。スメクランの移動とは思えぬ騒々しさだ。隠密を第一にする本来のやりかたを無視してでも、このミュートを連れ出すというのは一体どんな任務だったのだろう。想像するだけでカイは胸が苦しくなるような思いにとらわれた。
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