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森を抜け、里の西の間道を行くころには、日はとっぷりと暮れていた。
間道のそこここに見張りが立ち、昼間とは打って変わった警戒ぶりである。彼らが手にした松明の灯りが、カイの心の奥底に残る緊張感を解きほぐしていく。
「ラドルさん、駐屯地にはほかにもミュートがいるんですか」
カイは少し前を歩くラドルに気になっていたことを尋ねてみた。
「ああ、もう一匹いるぜ」
「そうですか」
「ふん、怖気づいたようだな」
ラドルは振り返ると、冷たい笑みを浮かべて言った。
図星だった。この日目にしたものは、あまりにも刺激が強すぎた。もうこれ以上恐ろしいものを見るのは御免だとカイは思った。
「安心しな、そいつはこのミュートほどぶっ飛んだ見た目はしてねえよ。でもな、そいつときたらなかなか使える能力を持っててよ……」
ミュートを繋ぐ鎖をじゃらりと鳴らしてラドルが言った。早口になりかけたところでアーライルが顔をしかめて口を挟んだ。
「まあ、それは実際に見て確かめたほうがいいだろう」
見た目は恐ろしくはないが、やはり何か不気味な能力を持っているのだろうか。アーライルがラドルの説明を聞きたくないと思うような代物だとすれば気が重い。『まだ少し早いんだが、ミュートについて知っておくのもいいだろう』というアーライルの言葉からすると、本来は里の同年代の子どもたちに見せるには刺激が強すぎるということなのだろう。確かにそれは間違いない。カイは自分の前を鎖に繋がれて歩くミュートの巨体を眺めながら考えた。こんなにも恐ろしいものが里のすぐ近くにいることを全く知らずに自分たちは暮らしてきたのだ。
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