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「ちょうどいい、別のやつも見せてやろう。松明を消せ」
ラドルはそういうと隣に建つ石造りの小屋へ向かった。月明りと篝火の灯りで松明を消しても互いの顔ぐらいは判別できる。そこへラドルが頭から布の袋を被った小柄な人影の手を引いて帰ってきた。どうやら女の子らしい。
「『ナイトビジョン』だ」
頭の袋がラドルの手で無造作に取り去られると、少女らしき姿をした者は顔を手で覆って蹲った。長く伸びた腰のない赤味がかった髪も、月光に白々と浮かぶ手も薄汚れていた。
「ほら、この程度の明るさなら平気だろうが、顔を見せろ」
ラドルは『ナイトビジョン』と呼ばれた少女の肘をつかんで無理やり立たせ、その手を顔から剥ぎ取った。
そこには巨大な二つの目があった。普通の目の三倍はあるだろう。そのほぼすべてが瞳でほとんど白目の部分は見えない。明かりに反応して濃いブルーの瞳の中の瞳孔が、闇に棲む生物のように縦長に収縮するのがはっきりとわかるほどだ。カイは言葉を失った。背後ではガラが息をのむ気配がする。
「こいつには、自衛するだけの力はないが、暗い迷宮や夜闇に紛れる任務には重宝するんだ。なんせどんな暗闇でもけた外れの視力があるからな」
ラドルが自慢げに言った。スメクランもほかの種族に比べれば夜目は効くほうだが、限度はある。これならどんな闇夜でも遥か彼方まで見通すことができるだろう。
大男のミュートの場合はあまりにも度外れたその姿に圧倒されたが、『ナイトビジョン』の顔貌には自分たちの姿形に似ているからそこ、居たたまれなくなるような不安感を醸し出すものがあった。
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