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PROLOGUE
稲妻が闇を切り裂き、間髪を入れず雷鳴が轟く。
篠突く雨を突っ切り、ひとりの男がシュトゥラを駆っている。シュトゥラの繊細なたてがみは重く濡れ、今はべったりとその優美な首にまとわりついている。男は手綱にしがみつくように身体を伏せながらも、純白の乗騎に何度も鞭を入れた。真っ直ぐに続く林の中の一本道。その先に石造りの城がある。城の四方に立つ尖塔のひとつに穿たれた窓から明かりが漏れている。
(急がなければ。かの悪しき伝承が現となり、光は力を失って闇の帳が世を覆尽くすことになる)
闇夜に蠢く分厚い雲が間欠的に紫色の閃光を放ち、突風に煽られる梢の影を大地に投げかける。
また夜空を稲光が彩り、男の鋭く尖った顎が闇に白々と浮かんだ。深く被ったフードの下で男は口を固く引き結んでいる。城はもう目前だ。
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