第十四章 開発

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第十話 リリース  システムは、十倉さんと安池さんの、卒業式の前にリリースすることが出来た。  この数ヶ月、電脳倶楽部の面々だけではなく、勉強会に参加していたメンバーも頑張ったと思う。  プチデスマになりかけたこともあったが、乗り切った。  本番サーバに移行したら、SSL関連で問題が出た、大騒ぎになったが、TLS1.2に対応させ無ければならなかっただけだった。情報が乏しいなかで、対応方法を模索していたが、錯綜してしまっていたのだ。  サーバ側での対応も可能だったが、TLS1.1は使わないと決めて、アプリケーションをTLS1.2対応にした。Visual Studio のC#では宣言を行うだけで終了する。  |おまじない《System.Net.ServicePointManager.SecurityProtocol = System.Net.SecurityProtocolType.Tls12;》を、Program.cs の先頭にでも記述すればいい。これだけなので、すぐに問題は解決した。  リリースは、週末を選択した。  すぐに、全校生徒が使い始めたが、機能がメッセージの送付だけなので、使いみちは限られている。  リリース直後には、問題は発生しなかった。  しばらくしたら、機能追加の要望が寄せられ始めた。  やはり多いのは、アプリのように通知が出来ないのかということだ。  戸松先生から相談があると言われた。通知の件だろう。  放課後に、職員室に行く。 「おぉ悪いな」 「いえ。通知の件ですか?」 「そうだ。どの方法がいい?」 「電脳倶楽部のメンバーは、何を考えていますか?」 「ブラウザの通知機能を使おうと思って、情報を集めている」 「急いでいますか?」 「要望は多いが、急いでいない」 「そうですか・・・。それなら、アプリを作成しましょう」  通知では、ブラウザ依存になってしまう。iOSでは通知は受け取れなかったと記憶している。 「ん?」 「Android と iPhone 向けのアプリを作成しましょう。公開してもいいと思います」 「公開?何を?」 「アプリを公開して、在校生/教諭(科別)/保護者/卒業生の区分を作成して、情報共有ができるようにしたらどうですか?」  梓さんに、できるようなら考えて欲しいと頼まれていた内容がある。  卒業証明書の発行依頼が出来ないのかということだ。卒業生だという認証をする必要があるが、それさえクリアしてしまえば、依頼を出すだけなら難しくない。戸松先生に、卒業生に対する利点や保護者に対する機能を説明する。  今年、卒業する十倉さんたちは、すでにデータベースに登録されているので、大きな問題にはならない。 「アプリの内容は、わかったが、公開の意味は?」 「ん?せっかくだから、電脳倶楽部に経験を積んでもらおうかと・・・」 「そうか、確かに経験は必要だな」  アプリで対応することに決まった。  戸松先生は、パソコンから電脳倶楽部のサイトにアクセスして、一斉通知を出した。  返事が続々と来ている。  了承する返事だ。 「アプリを作ろうと思う。それで、問題は・・・」 「iOS・・・」 「そうだ」 「Xamarinで作ってみるのは?」 「そうだな。Macを用意出来ないし、現状では、それが一番いいのかもしれないな」 「はい。情報も出揃っていますし、大丈夫だと思います」  それに、それほど複雑な処理を行うわけではない。 「わかった。開発が可能になり始めたら、配布用のアカウントを作成すればいいよな」 「そうですね。最初から必要になるとは思えませんので、エミュレータ上でのテストを開始したら、アカウントを作成すればよいのではないでしょうか?」 「わかった。学校の名前で作れるか?」 「流石に知りませんよ。学校から問い合わせをして下さい」 「ハハハ。そうだな。わかった」  戸松先生との話は終わった。  あとは、電脳倶楽部が作業を担当する。俺は、サポートには入るがメインでは動かない。  今の1年生が中心になって開発を行う。俺たち2年生は就職や進学の準備がある。話を聞いた限りでは、大学受験を考えているメンバーは居なかった。電脳倶楽部での活動が楽しくて、専門学校に進学する者は居るようだが、推薦を受けるようだ。  卒業式の前日。  十倉さんと安池さんを呼び出した。もちろん、先輩たちが手伝ったツールを使ってだ。  もう、休みに入っている先輩たちだが、俺の呼びかけに学校まで来てくれた。 「篠崎。暇だからいいけど、何のようだ?」 「あぁそうですね。用事は、俺ではなく・・・」  勉強会のメンバーが、俺に先輩たちを呼び出して欲しいと依頼してきたのだ。  システムのリリース後にすぐに先輩たちは休みに入ってしまった。  免許を取得したり、準備をしたり、忙しかったようだ。さすがに、卒業式の前日なら大丈夫だろうと、津川先生が言ったので呼び出したのだ。 「なんだ?なにか、問題なのか?」 「そうですね。システムのリリースが出来て学校で使い始めたあとで、打ち上げをしていなかった。大事なことなので、十倉さんと安池さんに来てもらいました」 「は?」「打ち上げ?」 「はい。大将の店にある。二階を貸し切っています」 「はぁ?二階は、居酒屋だろう?」 「はい。でも、頼んだら、OKをくれました。料理は、大将のおまかせですけどね」 「おま・・・。まぁいい。俺が、サッカー部の打ち上げで頼んでもダメだったのに・・・」 「大将には、大きな貸しがあるので、大丈夫です。料金は、戸松先生と津川先生のポケットマネーですので、気にしないで食べて下さい。あっ飲み物だけは、持ち込んで欲しいと言われていて、電脳倶楽部のメンバーが買い出しに走っています」 「はぁ・・・。まぁいい。それじゃ、俺たちは、大将の店に行けばいいのか?」 「はい。勉強会の面々が待っていると思います」 「わかった」  スマホを取り出して、ユウキにメッセージを送る。  すぐに返事が帰ってきた。森下家で夕飯を食べて帰ってくると返事に書かれていた。メッセージを読んだ感じだと、ユウキの手伝いも今日までのようだ。  明日からは、ユウキは専門学校の入試に向けて勉強をする。  合格は間違いないだろうが、合格が目的ではない。その先に本当の目標がある。  皆が移動し終わった。大将の店に向かう。  二階には、外の階段を上がっていく。  すでに、料理が運び込まれている。大将の先輩にあたる人が設置した、料理を運ぶためのエレベータがある。 「よし。皆が揃ったな。コップを持て」  戸松先生が乾杯の挨拶をする。最初、俺に、挨拶をして欲しいと言われたのだが、丁重にお断りした。  話は、自然とシステムの話になっていく、俺は話には加わらない。 「篠崎」 「十倉さん。お疲れ様です。明日、生徒代表なのでしょ?」 「あぁ・・・。誰かの策謀で、本来なら、俺じゃない人がやるはずだったのだけどな」 「そんなひどい奴が居たのですね。殺したほうがいいですよ。それとも、後ろから刺しますか?」 「ハハハ。そうだな。篠崎」 「はい」 「すまなかった」 「え?」 「本当なら、俺が会頭を停めなければならなかった」 「それは終わった話です。それに、知らなかったのなら、止めようが無いですよね」 「それは・・・。でも、お前が恨まれるようなことは、避けられたのではないかと思っている」 「そうですね。でも、それこそ、今更ですよ」 「わかっている。わかっているが・・・」 「十倉さん。俺は、大丈夫です。それに、ユウキも大丈夫です。あいつは、弱く有りません」 「・・・」  学校に卒業式を邪魔するという警告が来ている。俺とユウキを名指しで批判する内容が書かれていた。俺もユウキも気にしないが周りが気にしてしまっている。特に、知り合いになった3年生からは謝罪の言葉を貰っている。  二日前に、犯人が逮捕された。出会い系サイトの”サクラのバイト”を斡旋していた先輩の一人だ。俺に、人生をめちゃくちゃにされたというのが動機らしい。  打ち上げは、思った以上に盛り上がった。遅い時間まで2階を専有してしまった。  途中から、大将も上がってきて、話に加わっていた。戸松先生や津川先生とも面識があって、話が盛り上がっていた。  そして、翌日の卒業式はなんの問題もなく終了した。  短い休みのあと、俺たちが3年生となる。
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