見えない手

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見えない手

 僕の田舎は、東名高速が通って居ることと、銘産となる海産物があるくらいしか取り柄がない。田舎町だ。  その中でも、港に近い地区には、昔からの風習が残されている。中学校卒業を間近に控えた、十分冬と言われる季節に行われる行事だ。  春漁の豊漁と、新しく船乗りになる、男児が行う行事だ。  僕は、漁師にはならない。高校に進学するし、できれば、大学にも行きたい。伝統行事と言われるが、はっきりって迷惑この上ない。しかし、悲しい村社会・・・漁師ではない僕は、参加を拒否する事はできるはずだったが、円味(まるみ)が参加する。  村社会が色濃く残る。田舎町では、有力家に逆らう事ができない。僕たちの世代だけの話しなら、それほど困る事はない。嫌なら出ていけばいい。だが、親や兄弟の事を考えると、村社会での生活を維持する必要が出てくる。そして、祖父が円味(まるみ)の船に乗っている事を考えると、拒否する事はできない。  そもそも、円味(まるみ)の家は、船元の家系だ。円味(まるみ)の跡取りが、僕と同級生で、彼は船乗りになる事を決めている。  僕には、行事の”参加を断る”選択肢は用意されていない。     
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