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昼休みに渡り廊下に来て。
そう誘われたのは、三時間目が終わった後のことだった。確か、隣のクラスの丹羽という男の子だ。名前もあやふやなくらい、面識がまったくない。なんとなく名前を知っているのは、同じクラスの声の大きな子から「にわくぅん」と呼ばれているのを聞いたことがあったから。
『にわく』って何? そう思って声の方に目をやったら、面倒くさそうな顔をした彼が「なんだよー」と言いながら教室に入っていくのが見えた。うちの学校は学力考査の結果は上位五十名まで名前を貼り出すんだけど、三位のところに「四組十七番 丹羽雅弥」ってあるのを見つけて、「ああ、あの時の」と納得した、それくらいの知識だ。
四時間目が始まる前に、お手洗い行っておこう。そう思って、無防備に教室から出た途端、「坂下さん」と背後から声を掛けられた。
「ひい!」
実際、そんな声は出てないけど、マンガだったら確実にそう吹き出しに入ってる。それくらい、びっくりした。
「あのさ、昼休み、渡り廊下に来て欲しいんだけど」
たぶんその時も「えっ」て返事をしたと思う。
呼び出し。しかも男子に。
自信のあるキラキラ女子なら、「もしかして告白されるのかな」って、トイレの鏡で前髪のチェックとかしちゃうんだろうけど、私にとってはただの恐怖でしかなかった。
私、何かしたかな。
――図書館の本、いっつも返却期限の夕方ギリギリに返すから、怒られるのかも。
――そもそも、あの人、図書委員だっけ。
――いや、それなら図書館で返す時に注意してくれればいいし。
十七年の人生、人に迷惑を掛けないように気を遣って生きてきたつもりだったけど、殆ど見ず知らずの人から怒りを買うようなこと、知らないうちにしちゃってたんだろうか。考え出したらキリがなくて、でも思い浮かばなくて、昼ご飯もあまり喉を通らなかった。そして、気分が萎えたまま重い足取りで渡り廊下へ向かったら、窓の外をぼーっと眺めている呼び出し主が立っていて、それでいきなり告白をされてしまったというわけだ。
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