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彼女に向かって振りおろした鈍器は彼女には当たらなかった。彼女は振り向いて驚いた顔をして俺をみる。
「どうして?」
俺は震える声で叫ぶ。
「もう、たくさんなんだよ。悪夢を見るのも責められ続けるのも傷付くのも嫌なんだ」
「そこまで私のことが嫌いになったのね」
「あぁそうだよ、大嫌いだよ。居なくなってほしい。俺はもう、解放されたいんだ!」
彼女は「わかった」と静かに頷くと俺に背を向けて台所へ行き、包丁を取り出した。
「何をする気だ。俺を殺そうとでもするのか?」
背を向けたまま彼女は言う。
「地獄は、怖いんでしょう?
貴方が私を殺したら、貴方は地獄行きでしょう。
大丈夫よ。貴方は長生きして、天国へ行ってね。幸せになってね」
彼女は包丁を彼女は包丁を持つ左手に力を込めて、自分の首に刺した。何度も、何度も、勢いよく。 声をかけることも出来ずに、彼女が気絶し倒れて動かなくなるまで俺はそれをただ呆然と、眺めていることしか出来なかった。
最期に彼女がどんな顔をしていたのかもわからない。天国への道、見つかるのかな。真っ赤に染まった部屋で俺はずっと泣き続けた。
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