1章 看る力

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――2――  その力を手に入れたのは、約三年前の中学一年生の時のことだった。  いつもと変わりない朝を迎え、朝食と身支度を済ませて家を出た。  中学に入って登校する時間が変わり、日課になりつつあった近所のおばさんと朝の挨拶をかわそうと口を開きかけた時だった。 ――20  いきなり、視界に二十という数字が現れた。ちょうどおばさんの頭の辺り。  まだ目が覚め切っていないのだろうか。  錯覚かと思い、目をこすったり、瞬きを繰り返したが何も変化しない。  否。絶え間なく変化している部分があった。  その数字が段々と減っている。体感で一秒感覚。  それが何なのか、何を表しているのか見当もつかず道路のど真ん中で思案していると、こちらに気づいたおばさんが声をかけてきた。 「あら、おはよう。そんなところにいたら危ないわよー」  普段通りの声音だ。  おばさんに特に変わった様子はない。  数字は見えていないのだろうか。 「おはようございます」  そう返しながら、注意された通り道のわきへと寄る。  会釈をして学校へと向かおうと思い、軽く頭を下げて上げる。  視界に入る零の数字。  宙に舞うおばさん。  民家に突っ込み瓦礫に埋もれる自動車。  凄惨な事実を目の当たりにした。  すべてを物語っている数字。  はじめて数字を見た日。  人の死を「看た」日。  看取った日。  この力を忌み嫌ったのは言うまでもない。  
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