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「付き合わせてごめんね#屡鬼阿__るきあ__#。屡鬼阿ってセンスいいもの持ってるからいろいろ貸してもらっちゃうのよね。ライブも毎回付き合ってもらっちゃって。私は幸せ者ですな。いつかそのバレッタかしてもらうんだぁ。あーそのちょっと茶色がかったサラサラな髪の毛いいなー。」
ニコニコと上機嫌で隣を歩く友人を見て屡鬼阿はほほ笑んだ。
「バレッタは絶対ダメ。もう佳代は“カニバリズム”ってなると手が負えないね。まださっきの黄色い声が耳から離れないよ。」
「だってだって、友達と外出できてライブにも来れて嬉しかったんだもん。こういう時じゃないとパパがうるさいし…。さて!まだまだ帰らせませんぞ~。あれに並ぶのです!」
はしゃいだ佳代が指で示した先には出待ち目的で裏口に立っている女性の長蛇の列だった。
「…まじか…」
屡鬼阿はファンの列をしばらく見つめ、諦めと悟りをひらいた。
走って向かう佳代の後をゆっくりと付いていく中で植込みの淵に一人で座っている女性に目を惹かれた。
(あの列のお連れさん待っているのかな…誰かに似ている気が…)
「屡鬼阿―!何してるの?遅い―!」
佳代の声で屡鬼阿は自分が立ち止まってその女性を見ていたことに気が付き少し恥ずかしくなった。
「別に何が気になるわけじゃないけど…まさか潜在的に私が女性に興味があるとか?違うちg…!」
誰に弁解するわけでもなく佳代の後を急いで追う屡鬼阿に左側から強い衝撃を受け尻餅をつき、つけていた髪飾りが外れ地面に落ちた。。
「いてててて、ごめんね、お姉さん。怪我してない?大丈夫?」
男が慌てながら、道に散らばった屡鬼阿のカバンの中身を拾っていた。
「あ、大、丈夫です…。」
屡鬼阿は態勢を整えながら髪飾りを拾い、先程気になっていた女性の方向に、ふと目線を向けたがすでに姿はなかった。
目線を男性の方に移すと、自分の学生手帳を見つめたまま男性は動きを止めていた。
「君…は…」
屡鬼阿の顔を見つめた男性は少し驚いた表情をした後、少し口角をあげた。
その少しの無言の時間を割くように出待ちの女性の声が響き渡った。
「やっべえ!」
男性は急いで立ち上がるとそのまま逃げるように待機していた車に駆け込み発車した。
「ちょっと!屡鬼阿!今の“カニバリズム”のJUNだよ!えー羨ましい!どこぶつかった?その運わけてっ!」
興奮しながら駆け寄ってきた佳代は屡鬼阿の体をべたべたと触った。
「…。あたしの学生手帳…」
屡鬼阿は男性が去った方向を睨んでいた。
「学生手帳?ならきっと学校に届けてくれるんじゃない?もしかしたら本人が届けてくれっちゃったり?やばい!推しのREIじゃなくてもいいから会いたい!あー!もしかして明日学校来ちゃう?来ちゃったり!あーやばーい!」
屡鬼阿は佳代の浮かれたテンションに呆れた。
「ほら帰るよ!迎えの車も来てるでしょ。」
「はーい。屡鬼阿も送るね。ほら乗って!」
佳代は屡鬼阿を迎えの車に無理やり押し込み二人は帰路についた。
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