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『今日未明…の…河川敷…車内から二名の遺体が発見されました。身元は…高校に通う松平佳代さん(18)……佳代さんは松平グループの一人娘で…警察によると…』
『お知らせの後は、世界に輝くロックバンド、カニバリズムワールドツアー最終公演東京ドームでの模様をお伝えします。』
屡鬼阿は制服に着替えながら片手でテレビのリモコン操作を行った。
いつもと同じように身支度をし、表情を変えず胸のリボンを結ぶ。カバンを持って自室から出て…いつもと変わらない高校生活の朝。
変わらない自宅兼寺院で経が読まれている。
「おはよう。」
本堂で経を読んでいた住職に声をかけた。
「お目覚めになりましたか#遮那__しゃな__#様。」
屡鬼阿はブレザーのポケットに手を入れて呆れた。
「いい加減、遮那様って呼ぶの、やめてほしいんだけど。じいちゃんが信仰するのは菩薩様や如来様だけでいいでしょ。」
屡鬼阿は住職の隣に座り焼香を炊き手を合わせた。
何も変わらない朝。
いつもと同じ日常
ないのは毎朝長い石段を惜しまずのぼり迎えに来る友の姿だけ…
「遮那様。遅刻しますよ。」
「行ってもまともに授業を行うかわからんし。…行ってきます。」
屡鬼阿はゆっくりと瞬きをして本堂を後にした。
教室に入ると案の定、彼女の席には沢山の花が手向けられていた。
クラスでは佳代の噂が蔓延り泣き出す者、気分不快を訴える者であふれていた。
「松平を発見したのがE組の陸上部のやつでさ。早朝にジョギングしていたら松平んちの車があって、窓がどす黒い赤だったんだって。すぐに警察呼んでその場立ち去ろうとしたんだけど、事情聴取で現場で話して時に、たまたま見ちゃったんだと。死にざま。」
「やべーじゃん。トラウマもんだな。やっぱり殺人ってことだよな?」
「詳しくはわかんねぇけど、…ほら、なんつーか、松平ってほら…親父さんの揉めごととかあったんじゃね?」
クラスの中渦巻く噂話と一過性の悲劇感に屡鬼阿は嫌悪した。
「こんな時だけ…最悪の居心地だ。帰ろう。」
屡鬼阿は席につかずそのまま踵を返すと廊下で担任教師とスーツを着た二人の男性が立ちはだかった。
「遮那。少し話があるそうだ。」
担任教師は屡鬼阿と二人の男性を応接室に通した。
「改めて刑事さんだ。松平と一緒にいた時の状況を教えてほしいそうだ。」
屡鬼阿に刑事が来ること自体は想定内だった。何せ彼女が殺される数時間前には一緒にライブ会場にいたのだ。
だからと言って犯人扱いのような口ぶりで尋問されるのは不快だった。
屡鬼阿は心底呆れながら淡々と尋問に答え、二時間ほどの拘束を経て解放された。
各クラスでは既に教師たちは何もなかったかのように授業を行い、生徒たちも各々授業を受けていた。
「こんな時にも授業ね。所詮は他人のことよね。人の死より授業よね。気色悪い。」
屡鬼阿はクラスに戻らず佳代の下駄箱の上履きを見つめた。
引っかかるものが多々あった…。
「とりあえず…行ってみようかな。」
そう呟くと屡鬼阿は佳代が殺害された河川敷に足を運んだ。
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