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少年時代の石舟斎はどちらかと言うと、いつも胤栄の後ろを追い掛けてくる様な子供だった。
どちらかと言うと泣き虫で、本を読む事を好んだ。
胤栄は隙あらば木に悪戯を仕掛ける様な腕白な子供で、身長差も相成って、僧衆から“凸凹コンビ”と称されていた。
それが今では、“無口で頑固一徹な柳生の頭目であり仕事人の石舟斎”と畏れられているのだから、人は成長するものだ。
胤栄も都の争いを掻い潜り、槍の道と深謀遠慮を兼ね備えた僧兵として宝蔵院の住職となった。
よくもまあここまで互いに生き延びてきたものだ、と胤栄は思う。
老兵が互いに寄り合って近況報告をし合うかの様な連帯感を感じていた。
「――………ああ……、すまない。驚かせてしまった」
手紙の束に驚いた表情の胤栄に気付いて、石舟斎は声をかけた。
表情が豊かな胤栄と無表情の石舟斎、やはり互いの変化こそあれど凸凹コンビなのは変わらない。
だが、昔からこの剣豪は、胤栄と自身の妻に関しては穏やかに返事をする所があった。
作業に熱中して無愛想になってしまった事を彼なりに謝っている様であった。
「何、気にしておらぬよ」
胤栄は微笑を浮かべて返した。
温和な石舟斎が見れて安心したのもあるし、元々胤栄はおおらかな性質だった。
胤栄のこの様な気質があるからこそ、この二人は付かず離れずの距離感を繰り返しながらも何だかんだで続いているのだろう。
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