プロローグ

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「出てくるなって、言ったのに。酒井の馬鹿」  檜垣くんは、本棚に背を預けるようにして座っていた。ガックリきて崩れ落ちでもしたのかもしれない。  しかし……イケメンは泣いていても様になるな。夕暮れの図書室っていうシチュエーションも完璧。もしぼくが女の子だったなら、これは次の恋が始まる展開。 「あの、これ……」 「ハンカチなんて、持ち歩いてるんだ」  小道具のひとつになりそうだからな。男に渡すなんて思ってもみなかったけど。さすがに泣いている相手を目の前にしたら、差し出すくらいはする。 「ちょっと隣、座って」  床に、座れと。本棚を背もたれにして。 「大事にしなくていいの? 本」 「……やっぱり、そこから聞いてたよな。はー……情けない。こんなところ、見られるなんて」  ただでさえ傷ついている檜垣くんをこれ以上虐めるのは可哀相か。ぼくはおとなしく隣に座った。  このまま帰れる雰囲気でもなさそうだし、失恋したばかりのイケメンくんの心境が聞きたいって気持ちもあった。我ながら趣味が悪いとは思う。  ところで。背の高さが違うのに、座ると目線が同じくらいになる件について。足か……足の長さか。 「あの娘のこと、泣くくらい好きだったんだ?」 「なに? わるい?」     
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