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 朝、起きたら草を刈り、朝食の後は家畜の世話と菜園の手伝いをする。時には家の修復などもした。  ラグエルが来るまではルーファスも手伝っていたようだが、ラグエルの方が力もあるし役に立つだろうと、ほとんど外での仕事はしなくなった。  ならば、ルーファスは何をしているのかというと、部屋にこもりっきりだ。  本を読み、書き物をして日がな一日、過ごしている。そして二、三日に一度、何やら散策をしに出掛ける。要するに散歩だ。  そのときだけだ。ラグエルもルーファスのお供で敷地外へ出ることができた。  近隣の山河をうろうろするルーファスに、金魚のフンさながら付いて歩くだけだが、勇者とのささやかな旅だ。  ルーファスは年のわりには多くを語らない主人なのだが、散策をしているときだけはポツポツ話しだす。  それがラグエルにとってこの上ない楽しみとなった。 「ここに登ると昔、川が流れていたことが分かるんだよ」 「今も流れていますね」  小高い丘から眺める下界には、集落と、その間を縫う一筋の川が見える。ラグエルは人差し指を(くう)に差し出し、川を辿ってみせた。 「そうじゃなくて、ほら、もっと広く見てみてよ。川の周りにある町の外まで見渡すんだ。町が崖にはさまれている」 「……ああ! ……本当だ」 「崖から崖までが大昔の川幅なんだよ。両脇の崖がずっと向こうまで続いているでしょ?」  言われてみると視界が開ける。今は集落になってる部分もかつて川底だったのだろうか。ルーファスの言うとおり不思議と大河の名残が見えてくる。 「おお! ……すごい……。大きな川だったんですね」 「こういう地形を河岸段丘っていうんだ」  ラグエルはふと、幼いころ母に聞いた大河にまつわる伝説を思い出した。 「そうだ。“大河の水源はシェアトの水瓶”と呼ばれているのをご存知ですか?」 「山の湧き水じゃなくて? 水瓶なの?」 「そうです。巨人シェアトの水瓶が倒れてしまったそうですよ。そこから大量の水がとめどなくあふれ出てくるのです。だから水瓶を起こして蓋をすると大河はなくなってしまう……。もしかしたら、この大河の跡を辿ると大きな水瓶があるかもしれませんね」 「へぇ! 面白い話だね」 「蓋、開けてみますか? ……なんて、伝説ですけど」
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