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 ガルシア邸での穏やかな日々は続く。  ルーファスの祖母、ガルシア婦人とは気が合うようで、日々の仕事はもちろん、今までやったことのなかった料理や裁縫も教授してもらった。ラグエルは大きな体に似つかわしくなく、これがなかなか器用者のようだ。 「どうですか、ルーファスさま。なかなかの出来栄えだと思います」  夕食後のお茶の席で、ラグエルは完成したばかりの刺繍を披露した。 「……上手だけど……小さすぎるよ」  ルーファスは白いハンカチの隅に施された刺繍に、目を寄せてしげしげと見た。小さな白い鳥が麦の穂をくわえ羽ばたいている図案だ。 「それに白い布に白い糸じゃ、目立たない」 「そうですねぇ。今度はもっと色とりどりの糸を使って大きいものに挑戦してみます」 「……大きくて糸を何種類も使う刺繍は時間がかかるわよ」  ガルシア婦人が言う。 「何日、何ヵ月かかるか……わからないのよ……」  その声は強張(こわば)り、ふるえていた。 「やりがいがありますね。手仕事も就寝前の日課になっているのでさっそく今晩から取り掛かろうかな」  ルーファスとガルシア婦人は何も答えなかった。  ラグエルの精悍(せいかん)な顔立ちは、笑顔になると年の割に幼く見える。屈託の無い笑顔をみせる素直でまっすぐなラグエルをガルシア家の二人は直視できずにいた。 「ごちそうさま」   ルーファスは目を伏せると、お茶に口を付けずに黙って離れへと下がってしまった。
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