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「……なにか失礼をしてしまったかな。ルーファス様は刺繍、お嫌いでしたか
」
「いいえ、あなたはなんにも。きっと眠くなったのよ。あの子、小さいころから眠くなると急に黙りこんでそのまま眠ってしまうの」
「そうですか。明日は散策の日ですからね。早くお休みになって良かったです」
「……お茶をもう一杯どう?」
「ありがとうございます。いただきます」
「……ごめんなさい。あなた、こんなことをするために来たわけじゃないでしょうに。本当にごめんなさい」
お茶を淹れなおすガルシア婦人の、手も声も微かに震えていた。
「……私は……ルーファスさまにお仕えするために来たのです。彼の望むがままに。……毎日、充実していますよ」
ラグエルは笑顔を作ったが、先ほどの屈託さはなかった。
その夜、ラグエルは眠れなかった。
ガルシア婦人の言ったことが頭からはなれない。考えないようにしていただけであって、それは核心をつく言葉だった。
“こんなことをするために来たわけじゃない”
その言葉を繰り返すと、涙が頬を伝う。
胸に手を当てると、名前を呼ばれた日と変わらず、まだ熱いままだ。
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