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 沈黙のあと、ルーファスは震える声を出した。 「行けないよ……。おばあちゃんが一人になってしまう。ずっと二人だったんだ。それにぼくは何もできないただの子どもだ。もし旅先で死んだらガルシア家が途絶えてしまう。ここにいて次の代に繋いでいくのが一番いい。……分かってる。あなたが旅に出たいこと。二十七歳だ。待っていたんでしょ? 勇者に選ばれるのを。でも、ごめんなさい。あなたには悪いけど、ぼくは旅に出ない。あなたを選んだのも、一番優しそうだったからだ。――それが本当の気持ちだ」 「本当にそうでしょうか」  目を開け、ラグエルは体を起こした。ルーファスの嗚咽がラグエルの胸を締め付け、痛めつける。  思わず、いつも兄がそうしてくれたように、ルーファスの頭に手を置き、微笑みを向けた。 「あなたはそれほど子供ではない。もう十三ではありませんか。それに無力でもありません。旅において地形や自然物の知識は大いなる財産ですよ。自分に自信と誇りを持つのです」  ラグエルはルーファスの両肩にがっしりと手を置き、強いまなざしを向けた。 「おばあさまのことでしたら心配ありません。よろしければ私の家から人をやりましょう。ちょうど母が末妹の花嫁修業の先を探していたところです。どうですか? のんきものですが優しい娘です。きっとおばあさまのお役に立ちます。そして、あなたについてですが、旅先で死ぬことはありません、絶対に。なぜだかわかりますか?」    ルーファスが濡れた目をしたまま首をふる。  ラグエルは胸にこぶしを当て、丁寧に答えた。 「私がそばにいるからです」  その答えに、ルーファスの表情がパッと明るく輝きだす。 「……ぼく……本当は……大河の水源も、砂漠も、凍った大地も、火を噴く山も……全部、全部、自分の目で見てみたいよ……」 「では、どこまでもお供いたします」 「ラグエル――。僕を本当の勇者にしてください!」 「初めから、あなたは私の勇者です」  ラグエルはルーファスの前に(ひざまず)き、深く頭を下げた。あの日、出来ず仕舞いだったことがようやく叶う。  腰に携えた剣を外し、ルーファスへと捧げ、片時もそばを離れぬことを誓う。  そして勇者は、ようやく旅に出た――。  了
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