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 かつて世の平安を脅かす魔王を封印した勇者の末裔、その一族は近隣の領国だけでもゆうに十は越える。世界中を見渡してみれば実に百にも上るだろう。  だが、世に勇者はただ一人。  その一人を決めるため、勇者を受け継ぐ意思のある末裔たちは競って”勇者の証”を王に示さなければならない。  勇者が決まると、すぐさま次の勇者の候補者となるものがとそれぞれの家から登城し、一斉に旅立つ。そして一番初めに”勇者の証”を探し当てたものこそがその代の勇者を名乗ることが許されるのだ。  果たして”勇者の証”とは、どのようなものなのか。それは王と勇者一族にしか分からないものと聞く。そう簡単に得られるものではなく、何年越しになるか分からない試練の旅となるだろう。  実際、現勇者が旅から戻るまでには七年を要した。先代は十一年。それ以前に遡ること最長では二十三年にも渡る長旅だったという記録もあるほどだ。  勇者候補となった者が、その大切な使命――勇者の(あかし)を探す旅に出るには、三つ条件がある。一つ目は登城して勇者候補としての登録を済ませること。二つ目は年齢制限。三つ目は一人きりで旅に出ないことだ。  長旅を予見すると出立(しゅったつ)が十歳以下だと幼過ぎる。しかし三十過ぎだと先が見える。それゆえ十歳以上三十歳以下が条件となった。    この慣習の成り立ちは『封印した魔王の監視と勇者一族の斜陽化を防ぐこと』だと言われている。  年齢制限を課すことで増えすぎた勇者の末裔の中から旅立つことのできる勇者は半分以下の人数になり、活きのいい勇者候補が旅立つことになる。  それでも”勇者の証”探しという重要な任務を課すことで家督は脈々と受け継がれることになる。  ――実は”勇者の証”とは隠語のようなもので、魔王の封印を定期的に調査確認し何らかの形でそれを王に報告すること――。これらを考慮すると妥当な条件だ。   勇者が決まった年から十年を数え、次の勇者旅立たせる。こうして定期的に魔王の封印が守られ続けていた。  王の勅命の旅であるが故、勇者候補たちは国家直属の随行者を連れて行かなければならない。間違っても勇者候補が魔王に取り込まれることのないよう、監視役と考えると穿ったしきたり《・・・・》だ。  だが、我こそはと意欲的な勇者候補にとっては、それだけでは旅の仲間として心もとない。  自分自身、魔術が得意なら剣士を、剣術が得意なら魔法使いを。自分で仲間を調達する者もある。  国家直属の随行者の他、自費で(やしな)えるならば何人連れ立っても良いことになっているので、大所帯の者は名家と一目で分かる。一方、ほぼ庶民の家柄や節約家などは国家からの手当を頼りに二人きりで旅をする組も多い。  勇者候補の旅立ちの年は、国中に触れ書きが行き渡る。お供に選ばれるべく、方々(ほうぼう)からあらゆる分野の腕自慢が城下に集結し、人で溢れかえる。まるで、祭りのような賑わいに包まれるのだった。
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