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 城下ほど近いラグエルの生家、ベリサリオ家にも、朝のさわやかな風と共に賑わいが届いていた。 「いよいよだな。ラグエル」 「おまえの努力が実る時が来た」  朝食の席に家族が揃うのは久しぶりだ。子どものように頬を上気させたラグエルは、パンをかじりながら強い意志を込めた目で兄たちに頷いて見せた。 「良い主人に出会えるといいが。近頃の勇者候補は随行者の家柄を見て選ぶという風潮があるからな。そうなると、だ。そもそも、ラグエルが選ばれるかも分からんなぁ」  二人の兄の温かい眼差しとは異なって、父は(いささ)か険しい表情だ。 「大丈夫ですよ、父上。魔法こそ使えないが、ラグエルは剣術大会で何度も優勝する腕前だ。きっと目の利く良い勇者に選んでいただけます」  ラグエルの生家ベリサリオ家は爵位も何も持たない、しがない一兵卒の家柄だ。だが先祖代々王にお仕えしている歴とした随行者の一族なのだ。貴族ではないにしろ、国家にとって大切な役目を受け継いでいることは彼らにとってどんな地位にも代えがたい誇りだった。  長子は家長の輔佐を務め、次子が家督を継ぐ。そして第三子が随行者を担う。勇者と旅立つ可能性がある第三子は相続に関わらない仕組みだ。  物心ついたころから夢見ていた。随行者一族の第三子に生まれたからには、いつか勇者をお守りしたい。そして世界を巡り、勇者の(あかし)を探すことを――。  十年前。ラグエルが十七の年だった。  勇者候補が王の許へ証を持ち帰り、この日、八代目の勇者が決定した。  ――間に合った! これで十年後は二十七歳、三十手前だ。お役目に就ける!  十七歳のラグエルは、その知らせを聞くと喜びの余り気が遠のいた。  八代目勇者たちの旅は七年にも及んでいたため、自分はもう旅立つことは無いとあきらめかけていたのだ。  その日から、ますます旅への憧れが止まず、どんなに厳しい訓練も耐え抜き、来るべき旅立ちの日を目指し、腕っぷしはめきめきと上がる。  そんなラグエルの十年を見ていた家族も、ラグエルと同様、万感の思いで今日という日を迎えているのだった。  
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