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さっそく持て余したラグエルは、好奇心からあたりを散策していると母屋の裏手で年配の女性を見つけた。この家の家人だろう。
薪割りをしているのは確かだが、特有の小気味よい音はいっこうに響かない。斧が上手く持ち上がらず、さくっと地面に突き刺ささるばかりだ。
「失礼、ご婦人。よろしければ私が薪を割りましょう」
「あら、あなた」
「私は、ラグエル・ベリサリオと申します。本日より、ルーファスさまにお仕えさせていただくことになりました」
「まあ! ……それで、あの子は?」
「お部屋にいらっしゃいます。昨晩、おやすみになっていないとか」
「何てこと! 薪なんかいいわ。こちらにいらしてください。お茶をお出ししますわ」
「いいえ。ルーファスさまから自由にしていてよいと申し使っていますので、お手伝いしますよ」
「……私、あの子の祖母ですの。あなたとお話ししたいわ。お茶をご馳走させて」
「これは、失礼しました。おばあさまでしたか。ありがとうございます。もちろんです。では薪は後ほどに」
ラグエルは婦人に続き母屋へと向かう。
ルーファスはどうやら祖母と二人暮らしのようだ。年季の入った重厚な木の扉が開くと家の中はこざっぱりとしていた。
「あの子、離れで寝起きしてるからここは私一人なの。気兼ねしないでくつろいでね。そうそう、あなたのお部屋もあるのよ」
ガルシア婦人はお茶の支度を手早く済ますと、ラグエルの前のカップにお茶を注ぐ。
きれいな若草色のお茶に花びらを添え、焼き菓子も用意してある。立ち上る湯気からは落ち着く香りがした。
「ありがとうございます」
「それで……あの子、何か言ってたかしら?」
「何も。ただ、休むので私は自由にしていて良いとだけおっしゃっていました」
「そう……。今日、あの子がお城へ行ってくれただけでもよかったわ。すっぽかすんじゃないかと思っていたのよ」
「まさか」
「お供してくださるのが良い方でほっとしたわ。それにあなた、お美しいのね。家を見て驚いたでしょう。勇者の末裔の中でも我が家は細々とやっているの」
「家柄など問題ではありません。勇者とはその血と理念を受け継ぐものですから。私の家も貴族ではありませんが、随行者の家督は大切に受け継がれていますよ」
朗らかに話すラグエルにガルシア婦人は目を細め、
「ふふ。ありがとう。あなた本当にいい人ね」
と、笑顔をみせた。
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