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「もうすぐお昼ね」
お茶が空になるとと、ガルシア婦人は立ち上がった。
「お部屋にご案内するわ。昼食までゆっくりしていて」
そう言われても、居ても立ってもいられない。ラグエルもすぐさま立ち上がった。
「いいえ、私は薪割りを済ませてきましょう」
ラグエルは裏庭に回り、ガルシア婦人と出会った薪割りの場所へ。
主人のもとでの初仕事にとりかかった。
昼食になると計ったようにルーファスがあらわれた。
そろって食卓を囲む時間は不思議と和やかだ。そしてガルシア婦人がデザートのフルーツタルトを切り分けているとき、ルーファスが唐突に話し始めた。
「今後のことだけど。ぼく、旅に出るつもりはないんだ」
あなたも見たでしょ? 他の勇者候補たちを。と、タルトの上に山盛りにのった若桃を一つ口に放り込んだ。
「ぼくが最年少だ。いや、年齢は関係ないな。ぼくは魔法も使えないし戦うこともできない。たしかに勇者の末裔かも知れないけど、なにも持ち合わせてないただの子どもなんだ。他に沢山、強そうな人たちが旅に出てる。きっと他の誰かが勇者の証を持ち帰ってくれるよ。だから、あなたには悪いけど、ぼくはここで王様から旅の手当てをもらって静にしてるつもりだ」
ラグエルは目を瞬かせた。
「……あなたは勇者だ。何も……何も無くても良いのです。そのために私がお供するのですから」
「ありがとう、ベリサリオさん。でも、ぼくは行かない」
「……ラグエルと……お呼びください。ルーファスさま。あなたは私の主人なのですから」
あまりの衝撃に前後不覚だ。ラグエルはルーファスの言葉、“ベリサリオさん”だけが気にかかり、話を逸らした。
「あなたも家に返してあげたいけど、そうはいかないよね。おばあちゃんの手伝いをしてのんびりしてていいよ。……早く勇者が帰ってくるといいね」
目を伏せ、淡々と話すルーファスの言葉には抗いようがない。
勇者と随行者に流れる血筋の力なのだろう。まだ会ったばかりだというのに、まるで、二人の間には初めからはっきりとした主従関係かあったかのようだ。
それからのラグエルはガルシア婦人の手伝いをして過ごす毎日を送った。
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