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こんな男でも我が子は我が子。何をしてでも庇い、守りたい。そう思うなら、罪もない娘を殺された母親の気持ちだって判るでしょう?
娘のように死ねとまでは言わない。私はただ、罪を罪と認め、相応の罰を受けてほしかっただけ。
でもそれが叶わないから、私のこの男に対する憎しみは行き場のないまま膨れ上がった。
必ず見つけ出す。復讐してやる。
その願いを叶えるために、私は自分の生命を捨てた。
だって、生きたままじゃ妨害するものが多すぎて、私はこの男の居所すら知ることができなかったんだもの。
でも、死んで私は自由になった。
命と生身の肉体を失うことで、私は望むままにこの男の元へ姿を現すことができた。そして、反省どころか、殺した相手の母親の顔すら覚えていないこの男に、ためらうことなく復讐することができる。
怪談話とかで、幽霊に生きた人間が抗えない状況はよくあるでしょう? 自分がこうなって判ったの。死んでなおこの世に残る程の強い思念は、生きてる人間くらいたやすく思うようにできてしまうって。
さぁ、歩いて。その足で近くの、一番大きな交差点に行きましょう。
ドライバーさんには悪いけれど、そこで私の娘のように、車に轢いてもらいましょうね。
轢いた人に申し訳がないから、轢かれた直後にすぐにあなたをその場から連れ去ってあげるわ。そして、また別の車に轢いてもらうの。
あなたが死ぬまで。あなたが死んでも。ずっとずっと、あの子が味わったのと同じ痛みや苦しみを与え続けてあげる。
そのために、私、命と肉体を捨てたの。死んであなたに会いに来たの。
会いたかった。
娘が死んでからずっとずっとあなたに会いたかった。
会えて、とても嬉しいわ。
会いたかった…完
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