双子の演奏

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今まで街で双子を連れてる人を見掛けても、 羨ましいと思った事など正直に言って一度も無い。 思えば中学生の頃に授業で観た、出産のビデオが原因かもしれない。 少し古めの映像の中で、女性が青白い顔に脂汗を浮かべて、 聞いた事もない声を絞り出す様にして出産していた。 クラスの大半が息をひそめる様にして観ていたが しばらくするとか細い赤ちゃんの声が聴こえてきて、 ようやく女性の顔が苦悶から解放された。 額に汗の張り付く穏やかな表情にクラスの雰囲気がふっと緩む。 やっと産まれた…いつの間にか握りしめていた手を開いて、 つめていた息をゆっくりと吐き出す。 隣の席の友達に、すごかったねと目配せしていたら 「ほら頑張って!次の子の頭が見えてきてるわよ!」と ビデオから叫ぶような声が聴こえてきた。 驚いて画面に目をやると、また女性の顔に苦悶の表情が戻っていた。 双子だった。 もう無理だよ…と隣の席の友達が小さな声で言った。私もそう思った。 結婚して一児の母になった今も、双子を街で見掛ければかわいいなと一瞬は思うが、 それよりも大変そうだな…と同情したし、当の双子の母親達も疲れ切った顔をして、 私の不躾な同情の視線を甘受している様に見えた。
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