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ふと視界の隅に、懐かしい色がよぎった。
――緑。
――緑色の髪の、少女。
「メノ――」
馬上で急に体勢を変えたせいで、馬がいななき暴れ出した。
「くっ」
少年は慌てて馬をなだめると、馬はすぐさま落ち着きを取り戻した。
群衆のざわめきも、やがて安堵の笑い声に変わった。
一旦馬を止め、同じ方向を見やると、すでに少女の姿はなかった。
だが、見間違うはずはない。
日差し除けの生成りの外套に身を包み、フードを目深にかぶってはいたが、そこから覗く髪の色は、紛れもない緑。
確かに、“メノウ”だった。
「カナメ様、如何されました?」
付き人の兵士が声を掛ける。
「いや…何でもない」
カナメと呼ばれた少年はそれに応えると、再び群衆の中、歩みを進めた。
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