6.魔法

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それでもテツは自分の事をあまり気にしてない。 自分はどうでも良いって思ってるから。 仲が悪いわけじゃないけど、兄の知さんが優秀だから出来損ないの自分は、期待も心配もされてないって思い込んでる。 誰もそんな素振りしてないし、思ってもないのに。 みんな、自分は要らないって思ってるテツを1番大事に思ってる。大事にしてないのはテツ本人だけ。 どうしたら分かってもらえるのかな? みんなテツのこと大好きなのにね。 「あ」 雨、だ。 ぽつぽつ降り出した。 そういえば、さっきから何か暗いな、って思ってたんだよね。 テツは、きょろきょろしては、指をピッ、っていろんなところへ向けて差してる。 これが、テツの唯一の魔法。 ピッって差したものは、見えない球体に覆われて雨から守られる。 ただ水分だけ防ぐから、それ以外は素通り出来ちゃうことと、自分にはかけられないのが、不便なところ。 歩きながら、テツは次々ピッ、ってしていく。 干しっぱなしの洗濯物や置きっ放しの荷物、野良猫や傘が無くて走ってる人、傘からはみ出したリュック。 1番にボクにかけてくれるからボクは全然濡れない。 でも、テツはどんどんずぶ濡れになっていく。 きょろきょろしながらのんびり歩いてるから余計に。 そんな時のテツは、威嚇してない。 多分テツ自身は気付いてないけど、猫が遊んでる時みたいに?うーん…獲物を狙ってる時みたいに、かな? 目が丸くなってて可愛い。 本人には絶対言えないけど。
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