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店内は格子窓が左側面と正面奥に二つあるだけで薄暗く、そこから差し込む夕陽が好き勝手に屈折しながら店のあちこちに伸びて染み込んでいる。床には調度品がいくつも無造作に置かれており、よく見ると差し込んだ陽は例外なくそれらの調度品を抱いているように見えた。
そう広くはない店内は客で混み合っていて、いくつかの背の高いテーブル、そしてカウンターは人でいっぱいだった。椅子のない店内は立ったまま食事をしている客で歩くのも困難を極め、床に置かれた調度品など、蹴つまずいて壊してしまいそうなものだったが、どの客も躓くどころかするりするりと猫のように避けながら歩いていく。
店内は人でひしめきあっているというのに無気味な静寂に包まれていて、聴こえてくるのは誰かが蕎麦やらうどんやらをすする音と、カウンターで注文をしている客のぼそぼそとした声だけだった。
カウンターの奥には色褪せた紙に書かれた品書きが画鋲で留めてあったが、客は洋食から子供向けの料理まで、様々に品書きを無視して注文し、また、ほとんどの客が店に入るなり料理名を口にする。蕎麦屋は蕎麦屋で当然のように、注文を受けたか受けないかの間で料理を運んで来た。
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