第一章 朱魂の舞姫

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第一章 朱魂の舞姫

 岩壁に渦を巻く螺旋の町から炊飯(すいはん)の煙がいくつも上っている。夜半(やはん)に降り出した雨は日の出前に上がったものの、湿気を含んだ朝の空気はどっしりと部屋に横たわっていた。祭嘩が雨戸を開けると、畳敷きの居間に清涼な空気が滑り込んで来る。庭に降りて身体を軽くほぐしながら、祭嘩は隣家の生け垣に咲いた白い花に目をやった。小さな花弁(かべん)朝露(あさつゆ)をたたえて瑞々(みずみず)しくきらめいている。 「なんだ、今日はやけに早いじゃねえか」  弥一郎が寝間(ねま)の戸を開けてのそりと顔を出して言った。 「番屋(ばんや)吾妻(あづま)から知らせがあってね。中三番で何かあったらしいんだ」 「中三番だと? 吾妻ってのはここいらの取り締まりが役目だろう。なんだって中三番のことなんか知らせてきやがる」 「さぁ」  祭嘩は居間に上がると卓袱台(ちゃぶだい)に置かれた器から煎餅(せんべい)を一枚取って口に入れた。湿気っていて不味(まず)い。それを昨夜飲み()したお茶で流し込む。 「さぁ、じゃねえよ。お前、また何か余計なことに首を突っ込む気でいるな」     
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