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二人が会う時間は、私がバスを待っている間の10分ほどのことだった。
その時間に合わせるようにして、矢野君は毎日バス停にやってくるようになった。
矢野君にとってその時間は、陸上部の走り込みの休憩時間なのだという。
「ばれたら、怒られるけど」
そう言って、はにかんだ彼の姿に、私はクスリと笑う。
「ばれないの?」
「うん。大丈夫。仲間にも頼んでるし」
「仲間?」
「……いや、こっちの話」
ふと見えたコスモスたちが風に揺れている。
もう何度この景色を見ただろう。秋限定の心躍るこの色、この景色を。
広大なコスモス畑の裏側にあるバス停は、学校から少し離れていることもあり、ここからバスを使う生徒はほとんどいなかった。だから、毎年、このコスモスの時間は、私だけのものだと思っていた。
けれど、今年は違う。
矢野君がいる。
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