コスモス、秋、好きな人

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矢野君は100メートル走の選手だった。 バス停で、矢野君は、他中にいるライバルの存在を教えてくれた。 ずっと勝てない相手がいる。タイムはほとんど変わらないのに、試合ではいつも勝てない。と、彼は悔しそうに話していた。 けれど、今日、中学最後の陸上競技会でライバルに勝ち、ナンバーワンになるのが夢だと言っていた。 きっと隣に並ぶ、矢野君よりも数センチ背の高い男の子が、そのライバルなのだろう。 互いのライバル意識が、眼に見えるように飛んでいる。 選手たちがスタート位置に立ち、体制を整えると、審判がピストルを高く振り上げた。 ――パン!! 鉄砲の音がグラウンドに鳴り響いた瞬間、ユニフォーム姿の彼らが一斉に走り出した。 速い、速い、速い……っ 真っ直ぐにゴールを見つめる視線、手の振り、足の動き。 全てが速くて、その動きは、同じ人間じゃないみたいだ。 風を切って、ゴールだけを見て、走り抜ける矢野君は、バス停にいた矢野君じゃない。 ふんわりと話す彼からは想像できないくらい、今の彼は速くて。 かっこよくて。 あぁ……女の子たちが、噂するのがよくわかると思った。 矢野君をかっこいいと話していた彼女たちの気持ちや目線、言葉の数々が、胸の奥にギュウと突き刺さる。
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