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北海道の広大な大地に、コスモスの花たちがゆらりゆらりと揺れている。
そっと手に取ってみる。
細い茎の上に花びらが8枚。風が吹き抜ける度に、花びらの数枚が揺れ動く。
私はその花を眺めながら、いつものバス停へと来た。
「30分後か……」
この地区を走るバスは、一時間に二本あればいいほうだ。
通学、通勤時間以外の時間帯は、一時間に一本程度になる。
30分待ち、そこから20分ほどバスに揺られて帰宅するのなら、自転車で通うほうが早い。
それでも私は、バス通学が好きだった。
それは、この広大な大地に咲くコスモス畑が見れるからだ。
私は、秋限定でバス通学をしていた。
今日も屋根付きのバス停の中にある青色のベンチに座り、スクールバックの中に忍ばせていた文庫本に手をかけた。
私はこの時間が好きだ。
コスモスの花の景色の中で、大好きな本を読む。これ以上の幸せの時間は、私にはないのだ。
「……これ、違う?」
いつの間にか、物語の世界に入り込んでした私に、秋風に乗って低い声がかかった。
目を上げるとそこに、同じ年くらいの男の子が立っていた。
部活の途中なのだろうか。白いTシャツに短パン姿だった。
彼の手にはあるのは、しおり。
先週買ったばかりのマーブル模様のしおりだった。
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