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その男の子が、体育の時間に噂されていた『矢野悠斗君』だと知ったのは、しばらくしてからだった。
学校の廊下で偶然出会い、「よう」と声をかけられた時、周りの友達が騒ぎ出し、初めて、彼がグラウンドの彼だと一致したのだ。
「いいなぁ、美咲は。あの完璧人間、矢野君と仲良くなれるなんて……」
友達たちはそう言って、ため息をついた。
「完璧人間?」
「そうだよ。容姿端麗、成績優秀、運動神経抜群じゃない!?」
「そうだけど……そっかな?」
「そうだよ!」
そう友達は言い切るけれど、その噂は違うと思った。
噂の矢野君は、容姿端麗、成績優秀、運動神経抜群。
他の友達から聞いた話もつけ加えると、誰にでも優しくて、老若男女、皆から好かれている完璧人間だと聞いた。
けれど、バス停で、矢野君は教えてくれた。
自分よりも速い他校のライバルに勝ちたくて、陸上を続けていること。
みんながカッコいいという顔も、自分は可愛すぎると思っていること。
成績は全然優秀なんかではなく、たまたま数学と歴史がスバ抜けて得意なだけなこと。
国語は全くできないし、英語も苦手だと教えてくれた。
人の噂と本人の評価は、これほどまでに、違うのだなぁと思った。
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