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『野球部勝ったよ!これで決勝進出!やった~』 応援に行ったクラスメートの美香(みか)のLINEを真由(まゆ)が目にしたのは、3時の休憩時間になってからであった。 指揮棒を振っていた顧問の北川(きたがわ)は、血相を変えて飛び込んで来た教頭に耳打ちされ、 「自主練習をしておくようにー」 という言葉を残して、10分ほど前にこの音楽室から連れ出されている。 東京の世田谷にある私立・誠新学園(せいしんがくえん)高等学校ー。 真由はこの高校の二年生で、全国大会で金賞の常連である吹奏楽部に所属している。担当楽器はクラリネットだ。 一方、野球部はというとー。 夏の甲子園の予選である西東京大会において毎年2〜3回戦止まりの、並のチームであった。 甲子園大会を見て分かるように、高校野球の応援といえば、主体となるのはブラスバンドである。 『ルパン三世のテーマ』やX JAPANの『(くれない)』といった定番曲の他、ご当地ソングなどを演奏して選手を鼓舞する。 高校野球とブラスバンドはもはや切っても切れない関係にあり、大抵の学校が自校の吹奏楽部を応援スタンドに遣って演奏させているのだ。 しかるに誠新学園においては、名門音大を出ている吹奏楽部顧問の北川が、こう言って憚らない。 「野球部の試合がある7月は、我々吹奏楽部にとっても全国大会の東京都予選を控えた重要な時期である。よって部員を応援には出さないー」 したがって誠新学園の応援は毎年太鼓や手拍子だけの、非常に寂しいものだったのである。しかしー。 学校は昨年、野球部の監督に甲子園優勝経験のある名将を、大金をはたいて引き抜いた。 野球部を強くして甲子園に出場させ、誠新学園の名を全国区にしたいという、理事長の意向によるものであった。吹奏楽部が何度全国で金賞を獲っても、甲子園出場には敵わない…。 果たして、効果はすぐに表れた。 新監督就任1年目の昨年、西東京大会で初のベスト8進出。 今年はさらに上を行き、準決勝まで駒を進める。 そしてつい先程、その準決勝で名門・西実(せいじつ)を破り、決勝進出を決めたのであった。甲子園まで、あと1つー。 「決勝戦は吹奏楽部に演奏させろ」 決勝は明後日、NHKが生中継する。教頭は理事長の命を受けて、指導中の北川を呼びに来たのであった。 こうして真由ら吹奏楽部は初めて、球場で応援演奏をする事になったのである。
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