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記者たちがざわめく。
「化け物は川の中から出てくると、その子を襲い、脚から飲み込みました。と、そこへ一人の老人が来て、化け物の首に飛びついたんです。いま助けるぞ、と言いながら…。僕の彼女の話では、その人はたぶん、その子のお祖父さん、という事でしたー」
大浜の額から、汗がしたたり落ちる。
「でも化け物は、お祖父さんを首にぶら下げたまま、その子の全身を飲み込みました。本当に、あっという間の事でした…。で、化け物は川に帰ろうとします。お祖父さんは『許さん』か『逃がさん』と叫んで、化け物の背中にしがみついています。化け物はお祖父さんを乗せたまま川に入って、上流の方へ泳いで行きました…」
祖父の溺死体が見つかったのはそこから50㎞先の上流だというから、老人のその執念たるや…。
警察は女子生徒の行方を、まったく掴めていないという。しかし化け物に喰われたのなら、それも当然だー。
「彼女は、すぐに警察に通報しようとしました。でも、僕がそれを止めました…」
なぜ?
「警察に言えば、まず僕らがここで何をしていたのか、聴かれる事になります。言える訳がありません…。そして長時間に渡り拘束されて、事情聴取を受けます。そうなれば、翌日の決勝どころの話ではありません。当たり前です。人が化け物に喰われたんですから。ご家族のためにも、見た事をすべて話さなければならない。でも、僕は逃げました。なぜなら…」
うつむいて話していた大浜が、顔を上げたー。
「どうしても出たかったんです。子どもの頃からの憧れだった、甲子園に…」
ついにその目から、涙が溢れた。
「僕は自分勝手な都合で通報せずに、翌日の決勝にのうのうとした顔で出ました。喰われた女子生徒、亡くなったお祖父さん、ご家族の方、本当に、本当に申し訳ありませんでした…」
記者たちは、言葉が出ない。
「そして僕がすぐに通報して、化け物が捕獲されていれば、アイツが…、沢村が喰われる事はありませんでした…。沢村を殺したのは、僕みたいなもんです…。沢村、ごめん。本当にごめん…!」
大浜は泣き崩れたー。
女性である事を隠して甲子園に出た沢村優希。
化け物を目撃した事を隠して甲子園に出た大浜健司。
甲子園には昔から、球児たちを虜にする魔物が棲むという。
遥かなる甲子園ー。
化け物の動静は、神のみぞ知る。
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