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矢田に命じ、眞鍋由佳と共に川口宅を訪れた黒木美香という少女を、生田は追う。おそらくその少女が、本当の被害者ー。
しかし、実は追うまでもなかった。
警視庁は別件で、すでにその黒木美香を管理下に置いていたのである。
7月末に世田谷の多摩川河川敷で起きた、吹奏楽部女子高生およびその祖父の失踪事件。
消息を絶った女子高生の携帯通話の最終履歴の相手、それが美香だったのだ。
したがって署轄である世田谷署が、数度にわたり美香の事情聴取を行っている。その時の彼女の証言は、自宅から遊びの誘いの電話をしただけで詳しい事はまったくわからない、というものであった。
状況が一転するのは8月下旬。高校野球、夏の甲子園の決勝が行われる日の朝である。
試合に出場するはずだった誠新学園高校野球部主将・大浜健司が世田谷署に出頭。実は失踪現場に自分と美香がいて、吹奏楽部の女子生徒が化け物に喰われるのを目撃していたと証言した。
これを受けて警察は再度、美香を世田谷署に呼び、事情を聴いた。クラスメートであるその女子生徒が化け物に襲われた時の状況や、それを目撃した事をなぜ隠していたのか、という事をー。
警察が強制性交容疑で川口琢哉を逮捕したのは、ちょうどその頃の事であった。
その本当の被害者と思われる黒木美香は、多摩川の事件で世田谷署が連日、事情を聴いている。
この事実に、さすがの生田も驚かずにはいられなかったー。
さっそく矢田を世田谷署に遣り、事情聴取に同席させる。
多摩川に関する事情聴取がおおよそ終了した頃、矢田は切り出した。
「川口に襲われたのは由佳さんではなく、本当はあなただったのではないですかー?」
当初、美香はそれを強く否定した。
襲われたのは、私じゃありませんー。
それは、被害を受けたのは自分だと証言している友人への配慮かー。
報告を受けた生田は、矢田に言った。
「それもあるだろうが、否定の本当の理由は大浜だ。無理やりとはいえ、他の男に抱かれた事を、絶対に知られたくないんだろう。恋人である大浜に…」
その後も矢田は粘り強く、美香への説得を続けた。
流れが変わったのは、被害を受けたとしていた由佳が、化け物に喰われてからであった。
川口に犯されたのは自分だと認めた美香は、矢田に言ったー。
「少し経ったあと、あの男から映像が送られてきました。私が、乱暴されてる時の…」
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