童話館の老婆姫と見えない老王子

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―魔法にかかる前― その女は、館のお嬢様で、両親は金持ちだった。 女は、童話館と呼ばれる館で、たくさんの絵本と共に暮らしていた。 女は、広い館のお掃除を灰かぶり姫のように行い、時には、食器棚やタンスとお喋りをしながら、小鳥を人差し指にとまらせ、高らかに、人魚の歌を歌った。 そして、眠る時には、糸車の針で指を刺して、床へと倒れて、死んだように眠った。 ―それが彼女の「妄想の中での生活」だった。 だが、そんな妄想が叶うことはなかった。 両親や、使用人、「婚約者」が、しっかりとしなさい、と、女の行う、妄想の邪魔をした。 いつもいいところで現実へと引き戻されるのだ。 女は、ため息をついた。 けれども、信じていた。 いつの日か必ず、カボチャパンツの王子さまが、私のことを迎えに来る、と。 でも、その前に「優しい魔法使いかしら」と、女は、少女のようにクスクスと笑っていた。 だが、女の目の前に現れたのは、優しい魔法使いではなく、黒いローブを身に纏った「黒いローブの男」だった。
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