最後の晩餐

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ごくシンプルなシャンデリアのひかえめな明かり、テーブルに彩りを添える季節の草花や飾り棚に並ぶアンティーク。会話の隙間をうっすらと流れる音楽もさりげなく、心地よかった。ちっとも進まない論文と格闘しつつ、息抜きを兼ねて暗くなるまで何度も過ごした。 素朴な味わいのケーキや薫り高い紅茶は、疲れ切った身体とささくれた心のすみずみまで行きわたり、窓からのぞく淡い空の色やガラス越しに注ぐ午後の光に、ひととき、閉ざされた世界から自由になった。近頃すっかり足が遠のいていたことも、ディナーのメニューを暗記するほど熟読していたのに、またいつかと先延ばしにしていたことも悔やまれる。
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