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男はあえて心を奪われたと仲間に伝えたが、実は自ら心の一部を愛香にあげたのではないかと思った。
好きだと伝えなければ、まだ地球にいただろう。しかし、どうにも抑えきれなくなって言ってしまった。
自分をコントロールできないことなど、彼はもちろん彼の種族には有り得ないはずだった。
何故なら、心などないはずなのだから。いつも合理的で無慈悲。感情は乏しい。
それなのに自分ほどの者が惑わされていては、他の誰も地球は支配できない。
だから見切りをつけて愛香たちの前から姿を消した。
愛香達を想い、何も影響を残さないように自分がいた形跡もすべて抹消した。
ただ、最後に感じた感情だけを残して。
「また桜見て、ぼうっとしているのか、愛香」
男は一瞬、優しい顔をした。その表情をもう誰にも見せることはないだろう。
愛香に想いは伝えたが、愛香の気持ちを聞かずに離れてしまった。
それだけが、わずかな後悔であった。
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